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第26話「クリスマスの夜は外に出るべからず」


「クリスマス」というイベントは、
男と女をトチ狂わせてしまう何かがあるように思う。


あれは高校を出て一人暮らしを始め、昼間はレンタカー屋でバイトをしながら
夜は夜間の大学に通っていた、18才の時だった。

そのレンタカー屋の隣にローソンがあり、
昼飯は大体そこでお弁当を買って済ませていたんだが、
そのローソンのレジに、なかなか美人なお姉さんが一人いて、
毎日顔を合わせるうちにレジ越しにひと言ふた言
挨拶やお天気の話を交わすくらいの間柄になった。


ある日、お姉さんとこんなやりとりがあった。

「ねえ君、彼女はいるの?」

「いや、おらんよ。モテないもん」

「だよねぇ。全然モテなそうだよねぇ。
 いいわ、じゃあ今度あたしがご飯一緒に食べに行ったげる」

「ホンマ?ありがとう〜」

「一緒に食べに行ったげる」という、上から目線が引っかかるものの
こんな美人からそんな風に言ってもらえるのもめったにない事なので
社交辞令でも嬉しかった。

その後も同じような社交辞令や、相変わらずお天気の話程度で
そのお姉さんとどうこうなるワケでもなく日々は過ぎて行った。



秋の行楽シーズンがやってきてレンタカー屋は繁忙期となり、
学校に間に合う時間にバイトを上がるのが難しくなってきたので、
ワシは事情を話して辞めさせてもらい、時間きっちりで上がれる
デパートの紳士靴売り場でのバイトを見つけて新たに働く事にした。

そしてバイトが変わると時を同じくして、ワシにもめでたく
おとなしくてかわいらしい彼女ができ、
ラブラブに1〜2ヶ月が経過した、そんな12月24日、
クリスマスイブの夜だった。


その夜は学校もなかったので、バイト後に彼女と待ち合わせ、
ファミレスで食事をしてグラスワインなんぞで乾杯したりして、
シルバーの指輪なんぞをプレゼントしたりもして、
彼女もクリスマス気分にウットリ、後は家に帰ってもう〜、

俺のトナカイでお前のイヴをホーリー&サイレントナイト、
グィングィンにグレゴリオ歌わしたろやんけオゥこら!

と鼻息も荒く店を出て二人でアパートまで帰ってきた、
その時であった。

「んん?」

ワシのアパートの玄関前に、女が一人寒そうに佇んでいる。

ローソンのお姉さんだった。ロお姉さんだった。


おやぁ?

ワシはタマゲて

「こんなとこで何しとんの?」

と聞くと、お姉さんはプルプルと怒りに震えながら
真っ赤な顔でいきなり怒鳴り始めた。

「何しとん?じゃないわよ!
 バイトも急にやめて!
 ご飯食べに行く約束してたじゃん!」


…約束…してましたっけ?

そしてワシの彼女を指さしながら一層語気を荒げてこう叫んだ。

 

「だから家まで調べてわざわざ来てあげたのに、

 なんなのよこの女は!」

 

いや、言うてる事むちゃくちゃですやん。


展開に全くついていけないままボーゼンとしつつ
ワシの彼女の方を見ると、彼女は彼女ですごいショックを受けたのか
その場にしゃがみこんでシクシクと泣いている。

そらそうですわなぁ。


左にしゃがみ込んで泣き続ける彼女、
右に大声で怒鳴り続けるお姉さん、

もしその時ツイッターというものがあったら
ワシはその場でひと言こう呟いていただろう。

 

「修羅場なう」

 

 

結局、
「アンタの顔なんか二度と見たくないわよ!」
とお姉さんはプンプンと帰って行き、それっきりだ。

あれは一体なんだったんだ。

そして彼女とはどうなったかと言うと、
ギクシャクとした状態が拭えず、そのままソッコーでふられた。


「二兎を追う者は一兎をも得ず」

と言うが、この場合

「一兎しか追ってなかったのになぜか二兎失った気分」

というクリスマスの夜の奇跡。
こえぇ。

あれ以来ワシは、クリスマスの夜は家に閉じこもって、
おでんと熱燗で静かにクリスマスが通り過ぎるのを待つようにしている。


                             つづく
 

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