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第24話 「平穏な日常風景を信じるべからず」

 

ワシは目を閉じて子供の頃を思い出していた。

家のすぐ前に広がる、優しくて大きな日本海、
そしてどこまでも白い砂浜が続く、弓ケ浜海岸。

子供の頃その海岸で、寄せては還す波に靴やズボンをびしょびしょに
濡らしながら、よく波打ち際で遊んだっけなぁ…
懐かしいなぁ。


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先日、車を走らせていた時の事だ。
運転中にちょっと尿意を覚えたワシは、トイレを借りようと
通りがかりのコンビニに立ち寄った。
初めて入るその店は人影もまばらで、やや無愛想ぎみの店員のニーちゃんは
適度にワシを無視してくれてるので、トイレを借りるには絶好の店であった。

トイレに入り、便器に向かった瞬間、ワシはギョッとした。


トイレの便器って底の辺に水が貯まってるやん?
普通さ、みんなの家は何%くらいの便器貯水率?
家なんかは便器に対してまあ5〜10%くらいの貯水率かな。
たまにレストランとかで40〜50%くらい貯まってるようなトイレも見かけるが、
でもまあどこの家も大体そんなもんだよね?


ところがそのコンビニのトイレの便器な、
ナント95%もの貯水率を誇ってたのよ。

 

 

…水瓶?

 


思わず「東京都の水瓶」と呼ばれる奥多摩湖かと見まごうほどに、それはそれは水瓶。
たっぷたぷ。


どゆ事?あれかな?


「男が用を足した後はやたらと飛び散ってて汚い!
  だからウチの店は限界ギリギリまで水を張って、飛び散りを阻止する!」


とかの、そういう信念を持った強硬派な店長のコンビニなんじゃろか。

とりあえず一旦トイレを出て店員たちの様子を見る。
特に変わった様子もなく、普段通りの仕事を坦々とこなしている。

ふ〜む、まあこれはこれで、この店の日常的な状態なのかもしれん。
我慢もそろそろ限界だったので、そういう事にして用を足してみた。


95%だった貯水率は、ワシからの放水作業にて96%へとレベルアップ。

だ、だ、大丈夫か?
いや、それよりもだ。


これ、今からレバーをひねって水を流すわけだよね?
そしたら普通どのトイレもさ、水がズワ〜ッ!と流れきる前に、
水位が一旦上昇するわけだよね?
この湖、あと残り4%しか堤防に猶予がないんですが、平気なん?
水流してホンマに平気なん?


レバーに手をかけたまま、ダラダラと流れる顔の汗もぬぐわず、
ワシは一人、自問自答し続けた。

やめた方がいいのか?
いや、店の連中の様子は普通だ。
普通に何の変わり映えもしない毎日を生きている感じだ。
昨日も今日も、そして明日からも、
この店は95%のトイレ貯水率で平凡に幸せに暮らしていくんだろう。
そう、これは普通の事なんや。この店の常識なんや。
そう、いつもの状態なんや!えいっ!!


レバーをひねった、その瞬間だった。

 


ドンドンドンドン!!!

 


背後からドアを強く叩く音が聞こえ、
店長らしき男の悲鳴にも似た大きな叫び声が聞こえた。



「お客さん!!
 このトイレさっき詰まっちゃって、吸引器取りに行ってる間に!
 お願い!流さないでーー!!!」




ワシは目を閉じて、子供の頃の弓ケ浜海岸を思い出していた。

ああ、あの波打ち際、懐かしいなぁ。
                           つづく

 

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