第23話 「バカは薪を割るべからず」
その存在はよく知っているが、でも実際に肉眼では見た事がない、
というものがこの世にはいくつもある。
でっかいとこでは「月の裏側」あたりから、
小さいとこでは「自転車をこいでる女子高生のパンツ」に至るまで、
「そう言えば、見た事あるようでないなぁ」というものが、無数に存在している。
そういう「見た事あるようでないもの界」の一つに「自分の骨」というのがある。
皆さんは自分の骨というものを肉眼で見た事があるだろうか?
いや、ないはずだ。
せいぜいレントゲン写真がいいとこだろう。
だが、これがグレートマスター/男の黒帯ともなると違う。
そう、何を隠そうワシはかつて自分の骨を見たんである。
ここから先、心臓の弱い方、食事中の方、
スプラッタームービーが苦手な方はご遠慮いただきたい。
つーかやめとけ。
かなり痛いぞ。
小学校5年生の時、授業の一環で「野外活動」というのがあった。
学年全員で校庭に無数のテントを張り、各グループに別れてカレーを作り、
ハンゴウで飯を炊き、キャンプファイヤーを囲んで歌を歌ったりなんかして、
そしてみんなで校庭に張ったテントに寝泊まりするという、ちょっとした
思い出行事的イベントであった。
テントを張り終え、いよいよ夕飯のカレーの準備にとりかかった時の事である。
好きな女の子の前でとにかくカッコつけたがりだったワシは、
もっとも男らしい仕事と思われる「薪割り」を志願した。
ワシのイメージする薪割りとは、ちょっと前にボクシングの名物親子が特訓で
やってたような感じの、オノをふりかざしてズコッと薪を叩き割るビジョンで、
めっちゃ男前な、あまりのカッコよさに女子たちが失神してしまいそうな、
そういう「汗だくのヒーロー」的なやつを予定していた。
が、手渡されたのはナタ。
??…これはナニ??
ナタを使っての薪割りとは、薪のてっぺんにナタの刃を当て、薪を持ち上げては
トントンと地面に落とし、あとはナタの重みで刃が当たってる所から裂けてくるという、
まあ地味ながらも誰にでも出来る簡単な作業なんだが、ワシはナタを見たのがこの時が
初めてで、しかも残念な事に相当頭が悪かったもんだから、その使い方がさっぱり分からず、
とりあえず左手で薪を持ち、ナタを持った右手を、オノを振りかざすように大きく
振りかぶっては薪に向かってひたすらスコンッ!スコンッ!と振り下ろしていた。
しかしナタの重量では当然薪を叩き割る事など出来るはずもなく、
何度か叩きつけたものの全く刃も突き刺さらない状況に少々焦ったワシは、最後に一発
「ウラァー!」気合いと渾身の力をナタに込め、左手で支える薪めがけて振り下ろした。
ズゴッ!
鈍い音がして、ナタは見事に突き刺さった。
ワシの左手に。
ホワッツ!?
一瞬、何が起こったのか分からなかった。
全身の力を込めて振り下ろしたナタは、ワシの左手中指のつけ根あたりに、
ザックリと突き刺さってたんである。
あわわわわ。
慌てて引っこ抜くと、中指はワシの意志とは裏腹に、糸が切れた操り人形のように
ガクンッとうなだれ、そして風に吹かれるままBPM250くらいのアップテンポで
プラプラプラプラ〜と力なく揺れ続けていた。
パックリと開いた傷口の中に、ワシは見た。
はっきりと見たんである。
マイ・ボーンを。
うわ〜、こんなんなってんだワシの骨って〜。オエッ。
最初、静かに真っ白な骨と肉を覗かせていたワシの左手内部だったが、だんだんと赤く
染まっていき、その後はもう、草津温泉なみの湧出量でだっくだくと血が噴き出してきた。
阿鼻叫喚。
現場はまさにその言葉が表すような、パニック状態の大騒ぎとなった。
パックリ開いた傷口とドバドバ溢れ出る血を見た女子は次々と失神。
ワシの歩いた後は失神した女子たちで道が出来るという、それはもう
60年代のミックジャガー並みの女子失神率を誇りながら保健室へ運び込まれた。
「薪割りで女子失神」
図らずも望み通りとなったんである。意味が全然違うが。
Y医院というヤブで有名な病院に運び込まれる。
「緊急手術やぁ」
そう叫ぶ老院長の息は、プンプンに酒臭かった。
おいおい大丈夫か?酔っぱらってるんちゃうか?
今お前「手術」の事を「しゅるつ」て言うたぞ。
不安を抱えながら手術の準備ができるのを待つ。
きっと切れた神経を一本一本繋いだりする、最先端でテクニカルな手術に
なるんだろうなぁと思いきや、ジイさんから施されたのは
「ちぎれた皮膚と皮膚を引っ張り合わせて、なみ縫い」だけ。
ええぇ!そんだけ!?
あとはもう、やたらと棒をたくさんくっつけて固定し、包帯でぐるぐる巻き、
完成したワシの左手は、まるで実写版アンパンマンのような、
異様にでっかい球体となっていた。
その夜は、キャンプに戻るわけにもいかず、自宅療養。
昼間の血みどろ騒動のショックからか、楽しいはずの夜のキャンプファイヤーは
実に静かに盛り下がりまくったそうだ。
すまんねみんな。
約10日後、抜糸。
想像通り神経は繋がっておらず、中指まったく動かず。
ジイさん先生は言った。
「まあ君は若いけんね、そのうち繋がるけん」
繋がりにくい時のインターネット程度の、
ものすごくドライでライトなそのインフォメーション。
ホンマか?
それからの2年間くらい、左手中指は全然動かなかった。
13歳の頃から、リハビリにと始めたギターを夢中で弾いてるうち、
指はあっという間に動くようになっていた。
今ではもう全く痛くも何ともないから人間の体て不思議なもんだ。
最近、たまに人から
「りゅうたさん、今日のギタープレイかなり粗かったですね」
などと言われたりするが、それはね、古傷が。
そう、古傷が時々痛んでしまうもんだから仕方がないのだよ。
ギタープレイが粗いのも、ギターソロがテキトーなのも、勢いでごまかしてるのも
弾くネタに困るとギターを股間に挟んだりするのも、トークがエロいのも、
ぜーんぶこの古傷のせい。
な、そういう事にしといて。
つづく |