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第21話「外タレのライブに行くべからず」

 

その日は朝からドシャ降りだった。
超大型の台風が関東を直撃したのだ。
叩き付けるような、すさまじい雨と風。
久々の関東直撃に、テレビは台風情報で湧いている。

 

その頃ワシはマンションの一階に住んでいて、目の前を汚いドブ川が流れていたのだが、
その川、大雨が降るとすぐ決壊してあふれだすのだ。
もうすでに川はあふれて窓から手を伸ばせば届きそうなとこまできている。
ゴウゴウとすさまじい勢いで流れる水の上を子供のゴムボールや
なぜかグレープフルーツなんかがヒュ~ッと流れ過ぎてゆく。

玄関から外に出てみてタマげた。
道路はもうヒザぐらいまで水がきていた。
洪水だ、いわゆる。
消防署の人たちがやってきて避難勧告をわめきちらしている。
ウチの地区はよそより低い場所にあるらしく、危険地域なんだそうな。
家賃が安いワケだ。。。

 

こんな日に。あぁ、ナゼこんな日に…

 

その日はずいぶん前にチケットを買って待っていた、
スティ●グの武道館ライブの日だったのだ。


ウドー音楽事務所に電話で問い合わせるが、なかなか繋がらない。
何十回とかけて、やっとネーちゃんが出た。
「あのぅ、今夜のス●ィングのライブ‥‥中止ですよね?」
お願い、中止にして。また今度、ね?ね?

 

「やりますよ」

やんのかよ!!

 

クソ!8千円をムダにしてたまるか。
ワシはカッパを着込み、膝まで水につかりながらジャブジャブと駐車場まで歩いた。
川から溢れ出る水は勢いを増し、歩くどころか立ってるのもままならない 状態に
なっていた。
川沿いに土のうを積んでいた消防署の人に呼び止められる。

「そこのアナタ!危ないですよ!すぐ避難してください!」
「ライブがあるんで‥‥」
「ライブ~?死にますよ」
「LIVE or DIE」?そゆ事か?

 

かろうじて動いた車で青梅街道をひた走る。
折れて横たわる木の枝や、グワングワンと転がってくる看板(!)を
必死でよけながらのデンジャラスドライビング。

「クソ~、●ティングめ~、許せん!」
スティン●への愛が憎しみへと変わる瞬間。

なんとか無事18時半スタートのライブに間に合った。
  
「コンバンワ!ニホン大スキ!」

オイ日本語それだけかい!こんな大変な思いで来たんやぞ、
「今日ハ台風デ、エライ目コイタネ。キャンタマ袋ガ縮ンダネ」
くらいのちっとは気のきいた事言えよ!
ねぎらえよ!ワシを!

おまけに2階席なので家で見るライブビデオよりも小さい映像。
「おデコが広い」という事くらいしか特徴がつかめないだけに、
ステージに立ってるのがステ●ングでも志村けんでも何かもう同じだ。
つまんね~。

 

そしてそろそろ中盤かと思われた19時20分頃。

 

「ドモアリガト!サヨナラ!」

 

‥‥はぁ?

 

終わった。
終わりやがった。あっさりと。

オイオイオイオイオイオイオイオイ、スティ男。
まだ始まって1時間弱しか経ってないぞ。
ワシから時給8千円もボッタくるつもりか?

 

ボーゼンとしながら外に出る。
台風は過ぎ去り、外は一変してすがすがしい夜になっていた。

行かない。もうワシは外タレのライブには二度と行かない。
お月さまに誓った夜だった。

 

ワシは今、音楽で世界を目指してがんばっている。
いつの日かスチングに会って8千円オゴらせるためにだ。

                             つづく

 

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