第17話 「エロを深追いするべからず」
高校時代、ワシは毎晩のように夜中ひたすら遊び歩いていた。
そんな17才の8月のある夜。
その日もバンドのベースTと夜中の1時半まで飲んで遊んだ帰り道だった。
自転車で真夏の夜道を走りながら広島城の横を通りがかった時、
おもむろにTがこう言った。
「夜中にな、広島城の城内でカップルが野外プレイしとるらしいで」
時刻はAM2時をとうに回っている。
時々車が通り過ぎるだけ、まして通行人などまったくいない外堀通り。
野外プレイ?おてんとう様が見てないのをいい事に男女が外でまぐわうとは
なんという不謹慎な!叱りに行かねば。
「覗きに行こう」
あ、スマン。
若さゆえ「叱る」と「覗く」がごっちゃになっていたようだ。
自転車を乗り捨て、ダダっ広い城内をズンズン歩いて行く。
うっそうとした森。月明かりの下で天守閣の黒い影だけが、
浮き出るように
夜の闇の中にそびえ立っている。
公園などではない、あくまで城。
天守閣の下に広がる森の中に街灯などあるワケもなく、
かろうじて月の光で木の輪郭だけが分かる程度の闇。
ワシらは「ヤッてるカップル」を探して、エロビデオのモザイクを細い目をして
見つめる中年オヤジのように、目を皿にしてひたすら歩き回った。
期待に胸膨らむ。
いや、その他いろんなところも膨らむセブンティーン。
その時だった。
「ゴニョガニャゴニョゴニョウニャムニャ‥‥」
‥‥人の声?
森の中で、どこからともなく聞こえる複数の人間の呟くような声。
それも「お経」のようになにかブツブツと唱えている。アヤシイ。
声の出所を探ろうと木の影に寄り添った、その瞬間。
「!!!!!!」
ワシの顔からわずか30cmたらずのところに人間の顔があった。
「ーーーーッ!!○×△☆×~!!」
女。昔のヒッピーのようにまん中から分けたボサボサの長い黒髪の女。
しかもそいつ、わずか30cmの距離にいるワシをまったく見ない。
木の幹に手をかけ、ウツロな目で空を仰ぎ、なんか「人間語」とも思えない
意味不明な言葉を空に向かってひたすらブツブツと呟いている。
そしてよく見りゃ暗闇の城内のいたる所、20〜30人くらいの男女が。
それぞれ一人ひとり木に寄り添い、天に向かって皆ブツブツ呟いている。
70年代のヒッピーのようなカッコウの奴やら、防空頭巾をかぶった戦時中の
モンペ姿のような人やらいろいろいて、ドヨ~ンとした空気で満ち満ちている。
真夜中2時半、真っ暗闇の広島城内で。
「キャーッ!!Tー!Tー!」叫ぶワシ。Tはというと
「ま‥も‥も‥も‥ま‥‥」腰がヌケてるらしい。
もっといい驚き方はないのか?
二人してキャーキャー騒いだ。
騒いだのに、だ。
その20〜30人、誰一人こっちを見ないのだ。お願い、誰か見て‥‥
UFOを呼ぶ会?宗教?
どうでもいいがアヤシ過ぎるぞアンタら!!
それともナニか?まさか‥‥ゆ、ゆ、幽‥‥キャーーッ!!
ワシとTは「ムンクの叫び」の叫びちゃんのように頭をかかえ、
キャーキャー騒ぎながら、ブツブツ呟き続ける集団の中を転がるように走り抜けた。
期待で若干膨らみぎみだったはずのち○ぽ、すでにヤングコーン大。
競輪選手も真っ青のスピードで自転車をこいでこいでこぎまくって逃げた。
あれがなんだったのか未だに分からない。
ただひとつ「エロはもうコリゴリだな」そう思った。
翌週Tと会った時、彼は言った。
「そこの2丁目の○○大の女子寮な、夜中に窓開けて風呂入るらしいで」
メビウスの輪の中にいるような二人だった。
つづく |