第15話 「子供をナメるべからず」
小学5年生の時、学芸会で演劇に出ることになった。
「人知れず、目立たず、でもちょっぴり人気者」あたりの微妙なポジションを好むワシ
が自ら出たがるワケもなく「声がデカい」という理由でムリヤリ推薦されての事だった。
演目は「ハンメルンの笛吹き」
<ある街にネズミが異常発生し皆が困っているとこへ突然謎の笛吹きが現れ
大金の報酬とひきかえにネズミ退治をひきうける。
その男が笛を吹くと、不思議な事に街中のネズミが彼の元に集まり笛吹きに
連れられいずこへと消える。
後日その男が報酬を受け取りに行くと、市長はじめ皆いっせいにシラを切り
罵倒し、男を追い出す。怒る男。
その夜、男は再び笛を吹き、今度は街中の子供達を連れ去ってしまう‥‥>
とまぁ「口約束を真にうけた貧乏ミュージシャンの陰湿な復讐劇」という
ネガティブな物語なワケで。アレ?違う?
各クラスから劇をやる生徒全員で集まったところで、鬼教官のような先生は言った。
「今から一人ひとり名前を呼ぶ!呼ばれたら返事をしろ!
たるんだ返事をしたら容赦せんぞ。ええか!」
次々名前を呼ばれてそれぞれ返事をする。だいたい皆弱々しい。
「佐藤ー!!」「‥‥はい‥」「鈴木ー!!」「‥‥はい‥」
先生の顔がにわかに険しくなる。あ~、センセ怒ってる~。
「お前らそれでも男かワレコラァー!!」
こ、恐ぇ‥‥大きな声で返事せにゃ。これ以上怒らせちゃマズい。
「りゅうたー!!」ワ、ワシじゃ!
「はいっ!!」
「よっしゃ!お前主役!」
‥‥‥‥へ?
「いい声出すネ」あ、い、いやそれは‥‥
「度胸があるな」度胸がないけぇデカい返事したんじゃい!
「決定」キャー!
こうして「笛吹き役」をやるハメに。
台本を渡される。
めっちゃめちゃ長ぇ‥‥
舞台は1部と2部に分かれてて、それぞれ主役も替わる。
「カッコよく登場、ポジティブにネズミをやっつけるまで」=1部。
「裏切られて、ネガティブに復讐する」=2部。
1部の主役、富澤くん。2部、ワシ。
いや~んネガティブ役~?
こうして練習が始まったんだが、これまた上手にこなすのよ、富澤くんが。
なんせ市長たち相手に大見得をきり、カッコよくネズミを退治して
チヤホヤされる役だ。そら気分も良かろて。
そしてワシ。さんざん「ボケ・カス」呼ばわりされ、
しまいにゃ女市民に「ペテン師!」とか叫ばれて。
ワシがお前に何したんね?
練習中は劇中のみならず先生にまで怒鳴られて。
「りゅうたー!やる気あんのかぁ!」
ないんですってば!
そうして迎えた本番。
復讐シーンでワシが笛を吹くと、子役たちがチョロチョロとついてくる。
練習中の先生(舞台監督気分)の指示を思い出した。
「ハイ!りゅうた!ここでニヒルに笑うー!」
笑えるか?ニヒルに。小学5年生が。
客席を見ると、父兄たちが
「まぁ、なんてヒドい人なの」という目でワシを見ている(被害妄想)
違う!ワシが悪いんぢゃない!市長らが悪いんやぁ!
結局お芝居は、主役がほとんどのシーンをうつむいてモジモジやり過ごすという
悲惨な状態で幕を閉じた。
あぁ、割と上手くやってたリハであんだけ怒鳴られたんや、
ステージ降りたら先生にドつかれるんだろうなぁ。。。
そう思いつつ舞台を降りると、目に涙を浮かべ、満面の笑顔の先生が。
ガシッと肩を抱きながら
「りゅうた‥‥ワシは感動したぞ‥‥今までで一番イイ演技だった!」
‥‥うわ!くせぇ‥‥
青春くせぇ!!
なんか分からんが昔の「中村雅俊」系ドラマのような、この青クサい先生の
「これでお前は俺に夢中」という計算をかいま見た瞬間、
「フッ‥‥」
ワシは小学5年生にして初めてニヒルに笑った。
つづく |