第13話 「仰向けで寝るべからず」
タイムスリップを経験した事があるだろうか?
何をかくそう実はワシはある。
しかも未来へのタイムスリップだ。
その貴重な瞬間を皆さんにお見せしよう。
19才のある春の夜。
当時デパートに勤めていたワシは職場のみんなで花見に来ていた。
ワシの横には、当時密かに想いを寄せていた3つ年上のTちゃんという子。
「やっと二人で飲めるネ~」
そう言いながらワシにビールをつぐ彼女。
おぉ!まんざらでもないやん。
ワシは冗談ぽく原爆記念公園の脇に建ち並ぶラブホテル街を差して言った。
「なぁなぁTちゃん!あれ見て!何じゃろ?キレイな建物やなぁ!」
19才にしてオヤジなワシ。
彼女はラブホテルのネオンを見て、くすりと笑いながら耳打ちしてきた。
「そうネ、どんなトコじゃろうね?後で二人で行ってみよっか」
シュッポッポォ~ッ!!
ワシの中の機関車トーマスが発進し始めてしまった。
浮かれたワシは日本酒を一升ビンでイッキ飲み。
「お!トランペッターや!トランペッターがおるで!スゴい演奏やー!」
オヤジたちにノセられるまま、トランペットを吹く真似しながらワインも
ボトルでイッキ飲み。
停めて!誰かアタシのトーマスを停めてぇ!!
口直しにウィスキーをストレートでガブガブ飲んだあたりで尿意が。
「ちょっとトイレ行ってくるわ」
立ち上がり、フラつく足取りでトイレへ向かう。
時間はPM10時頃だった。
にぎやかな公園、キレイな桜。風がキモチいい~。
看護婦姿のネーちゃんがのしかかり、ワシをひたすら殴る。
「パン!パン!パン!パン!」
痛いなぁ~、もちっと優しくしてーな。コスプレでSMなんて初めてなんじゃけ。
‥‥‥アラ?
「よかった~、気がついた」と主任の声。
ワシは病院にいた。
AM4時だった。
皆さん、タイムスリップの瞬間にお気付きいただけただろうか。
一瞬にしてワシは6時間後の未来へと旅をしていたのだ。
話はこうらしい。
トイレに行ったまま、ワシはいくら待っても帰って来なかった。
11時を過ぎてお開きとなり、みんなで公園中を手分けしてさんざん探すも
やはり見つからず。
酔っぱらって先に帰っちゃったんだろう、とあきらめ全員解散。
その内の主任と主任の奥さん、他二人がタクシーに乗るため公園から遠く離れた
繁華街まで戻ってきたところ、デパートの入り口にナゼか人だかり。
そこには、ボロボロの服、全身血まみれで倒れている無惨な姿のワシが。
「キャー!!」
大急ぎで救急車を呼び、病院へと運び込む。
「急性アル中と打撲数カ所」と診断される。いったいワシに何が?
点滴等の治療を受け、「意識を戻すため」と看護婦に殴られる。
付き添ってくれた主任が「殺る気だ」と思うほど強烈ビンタだったらしい。
ワシの顔はパンパンに腫れていた。
ボロボロ、血まみれ、打撲‥‥謎は残ったものの無事AM4時半には退院。
主任にアパートまで送ってもらう。‥‥ホンマにすいません‥‥
ひと寝入りして起きた時、ワシは一面の黄色いお花畑の中にいた。
まぁ!なんて素敵なんでしょう!らんらら~♪
寝ゲロだった。
オエ!!あっぶね!
ジミヘンもたしか仰向けの寝ゲロで窒息した「寝ゲロ死」だったと聞く。
伝説を残しての寝ゲロ死ならともかく、さんざ迷惑をかけての寝ゲロ死は
ただただヒンシュクなだけだ。あぶないトコだった~。
それにしても‥‥
ラブホテルを逃し、アル中で大迷惑をかけ、そして寝ゲロでシメる‥‥
絵にかいたようなダメ人生‥‥
イカン!このままじゃイカン!変わらなければ!
金づちで殴られるような頭痛にうなされながら、一人ゲロを片づけ、
拳を握りしめてワシは固く固く誓った。
「これからは、いつ寝ゲロしてもいいように、横向きで寝る!」
伝説への道は遠い。
つづく |