第11話 「宗教団体の集会に出るべからず」
中学の時RCサクセションのコピーバンドを組んだのだが、それは高校時代には
いつしか「メタルバンド」へと変化してゆき、そして最後は「デスメタルバンド」に
辿り着く。坂を転げ落ちるかのごとし。
トゲトゲのトサカ頭に目は隈取り、真っ黒の皮服に全身鎖ジャラジャラ。
「ヘビーブラジャ~!!」とかワケの分からん歌詞をがなりたてていた。
そんなイケてない我がバンドにイケてない最後がやってくる。
「高校生バンドコンテスト」みたいなイケてないイベントのトップバッターとして登場、
「審査員どもを恐怖のドン底に叩き落としてやるぜ」と、鼻息も荒くステージに昇り
「ヴァン!ヅ!ズリ!ヴォ!」とデス声で4カウント、
「グワァーーーン!!」と
ディストーションのかかったムギムギなデスサウンドがワシのギターから飛び出す、
はずであった。ところが。
『ポロリ~~~ン‥‥』
‥‥ジャズ?‥‥
アンプがおかしいのかエフェクターが壊れてるのか、とにかくギターの音が歪まない。
爽やかなジャズサウンドにのせて繰り広げられる、デスメタルワールドの悲惨なひと時。
ギターソロなんか田端義男のLPみたいだ。
チロチロ~ピロリ~ン「ヘビーブラジャー!!」
ポロロ~~ン「GO!GO!!」‥‥GOじゃないだろ、そんな状況で。
演奏をやめればいいのに「イノシシの脳細胞をもつ男」の異名をとるワシは
そのまま「ジャズサウンド・デスメタル」をイッキに完奏。
司会者は言った。
「いや~、バイオレンスな見た目とは裏腹に、なんだかサワヤカな、今まで聴いた事
もない音楽でしたね~。ギターソロなんて『泣きのギター』て感じでしたもん」
泣きのギター?そりゃもう泣きすぎて赤っ鼻よワシ。
自分のデスメタル魂に限界を感じたワシはバンドを解散、新たに
「ハードコアメタルバンド」結成を決意する。
ナニ?どこが違うのか?
そんなお釈迦様でも分からん事をワシに聞くな。
対バンで知り合ったドラムとベースに、モヒカン頭の女ボーカルを加えて
結成したバンドの初ステージが決まった。
R会という宗教団体の集会のアトラクションとして出るらしい。
宗教の集会‥‥?
アトラクション‥‥?
それでいいのか?ワシのメタル魂よ。
イヤその前に歌詞は思いっきし
「殺せ!!」なんてあるんじゃけどいいんスかね?
会場は「区民文化センター」という大きなホール。
「北斗の拳の悪役」みたいなパンク衣装に身を包み、鎖をジャラつかせながら
楽屋入りしたワシらを待っていたのは、想像を絶する世界だった。
ワーワーと走り回る幼稚園児たち。
ハッピを着て和太鼓を準備している若者。
そしてドリフの聖歌隊コントのような衣装を着たジイさんたち。
カオスだ‥‥
心に疑問を抱いたまま、出番がやってきてしまった。
舞台袖で前のアトラクションが終わるのを待つ。
舞台では
「おじいさんとお孫さんたちによる『犬のおまわりさん』合唱」
が繰り広げられている。
『♪困ってしまってワンワンワワ~ン♪』
ワシが困っとるわい!!
パチパチパチ!!
‥‥終わってしまった。死刑台に昇るような気分や‥‥
ステージでセッティングしながら客席を見回す。
ジイさんジイさんバアさんジイさんバアさんバアさんジイさんバアさん‥‥
会場合わせて何万歳や!?
え~~い!ヤケだ!やったれ!
1曲目が始まり、そして前述のサビの部分がきた。
「殺せ!!」
その瞬間。
『ウィィィィィィ~~~ンンンン‥‥‥』
舞台の天井からいきなり幕が降りてきた。
ア、アレアレ??まだ2分くらいしか演ってないッスよ。
幕が下りると同時にイカついニイちゃんたちがドカドカとやってきた。
「オラ!!終わりじゃ!サッサと片付けて弁当食って帰れや!!」
蹴散らされるようにステージから追い出された。
ワシはこの話をもってきたドラムのYに詰め寄った。
「どーゆー事や!ヤツらが『出てくれ』つーから来てやったんじゃろ!?」
Yはモジモジしながら申し訳なさそうに言った。
「いや‥‥僕が‥‥『出させてくれ』てお願いした‥‥」
すなよ!宗教の集会に!
ともあれこの不条理(?)な扱いに頭にきたワシらは、
ハードコアの本当の恐ろしさを思い知らせてやる事にした。
そう‥‥復讐だ。
血を見るぜ‥‥フッフッフ
その日、区民文化センターの全てのトイレの大便器に、何者かがトイレット
ペーパーの芯やら新聞紙やらを詰め込んだために流れなくなり、
集会に来ていたおジイさんたちはえらく弱ったそうな。
つづく |