第8話 「うかつに扉を開けるべからず」
ある秋の穏やかな昼下がりだった。
玄関のチャイムが鳴りドアを開けると、そこには超セクシーなカッコの
とてつもなく老けた50代らしきオバはんが立っていた。
ハイレベルな体脂肪率と思われる肉々しい肉を揺らし、玄関に入るや唐突にこう叫んだ。
「ね!コンドーム使ってる?」
‥‥‥はぁ!?
「ピンポ〜ン」「はーい」「コンドーム使ってる?」
これは、世の中の流れ的にどうなん?アリなん?
なんちゅうか、もう
「ピンポ〜ン」「はーい」「ウンコした?」
「ピンポ〜ン」「はーい」「キ○玉のウラ側洗った?」
とか、何でもオッケーにしてしまいそうな、
ワシの人生を不安にさせるに充分な破壊力を持ったその入り方。
「いやぁ‥‥‥‥めったな事では‥‥」
彼女がいなかったワシは答えにマゴつく。
「そうですよね!お高いですもんね!」
お高い‥‥からですかね?
「でもあるなら使いたいですよね!?」
使いたいですねぇ使えるもんなら
「そ・こ・で」
でアンタ誰よ!?
オバはんはカバンからコンドームをたくさん取り出し、慣れた手つきでプッと膨らましては
キュッと結び、秋の昼下がりを台無しにする物体を次々と人ん家の玄関に並べていった。
「あなたサイズは?」はぁ?
「さ、さぁ〜‥‥普通‥‥じゃないかな」
「あ、そう。じゃMね」Mですか
「コチラの商品は素肌感覚の薄さで男性からも女性からも大変ご好評を」
おいサイズ聞いた意味は!?
「でコチラの商品は内側にも外側にもゼリーが」
も好きにして‥‥
「でね、1年分ワンセットで、今なら特別価格8万8千円でのご奉仕!」
たけぇよ!
だいたい1年分のコンドームて、いくつなん?
「12個入り40箱で480個」
わしゃサルか!!
オバはんを追い返し、ようやく穏やかな午後は戻った。
ちょっぴり欲しかったが。
あれから十数年が経つ。
あの時もし買っていたら‥‥
使用期限を抜きに考えても、480個は間違いなく未だに使い切れていない。
買わなくてよかった。
うかつに扉を開けてしまったその十数年後、
ホッとするような、ガッカリするような。
つづく |