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第6話 「夜行列車で上京するべからず」

 

忘れもしない、1989年9月15日の夜。

ワシは広島の街でMチンとTと酒を飲んでいた。
3人とも、これから始まる事を忘れてるかのように陽気にふるまった。

ワシの傍らには小さなボストンバッグとギター。
そう、この後深夜0時10分発の夜行列車でワシは上京する、最後の夜なのだ。

普段無口なはずのTもMチンも珍しく饒舌で、中学や高校の頃の
小さな小さな「大事件」の数々を一つ一つ回想しては笑っていた。

時間が刻々と迫るにつれ、笑い声の合間にポツリポツリと
無言の間が割り込むようになっていく。

「ホンマに行くんか‥‥」
「あぁ‥‥」

駅に向かいながら、広島の夜の街を目に焼きつけた。

 

暗闇の中で冷たく白い光にボンヤリと浮かぶプラットホームが、異次元への
入口のようで、これから先独りぼっちで生きていく事が急に悲しくなった。

無情の音を立て、列車がやってきた。
扉が開くと、ワシは意を決して乗り込み、振り返った。
MチンとTは言った。
「じゃありゅうた、2ヶ月後に」
「なんでや!」
「ヘッ!どうせお前、すぐイヤになって帰って来るんじゃろうが」
シツレーな!
「プシュ~ッ」扉が閉まり始める。
急に真顔になったMチンが最後に叫んだ。
「ええか!無理すんなよ!イヤになったらいつでも帰ってこいよ!」

 

‥‥ありがとう

 

列車は走り出し、あっという間にプラットホームは小さくなっていく。
ワシの10代の想い出の全てが、遠い彼方へ飛んでいくような気がした。

 

切ない思いを胸に、ワシは自分のベッドへ歩いた。すると。
「アレ?」
ナゼかワシの席のカーテンは閉められ、中からオヤジのカン高いイビキが。

オイオイオイオイ!誰やオッサン!
ワシのこの美しい上京物語に水を差すのはどこのどいつじゃコルァ!
プンプン怒りながら車掌を呼んで抗議しまくった。
「今すぐコイツを叩き起こしてどっかへやってくれ!!」

車掌はワシの切符を見ながら静かにこう言った。

 

「お客さん、これ、昨日の切符ですよ」

 

 

 

      ‥‥‥‥‥え?

 

「ははぁ、お客さん、切符の注文の仕方、間違えたっしょ?」

そう、16日の昼過ぎに東京着を予定していたワシは、窓口で

「15日の深夜0時10分発東京行き」

と注文していたのだ。
今乗っているのはもちろん「16日0時10分発」のヤツ。

「今どき小学生でも分かりますよ~」と車掌。

「アレ?‥‥いや、でもそれは‥‥あぁそっか‥‥えぇ?」
ワシ、しどろもどろ。

「どうします?」
どーするもこーするも‥‥どーしましょう?
「あのぅ‥‥東京まで‥‥乗せてください」

かろうじて空いていたクソボロい従業員用のベッドを与えてもらい、
クソみじめな気持ちで東京へ向かうハメに。
あぁ、本当はもっとたくさん荷物があるのに、この日の為にわざわざカッコよく
「ボストンバッグ一つ」にまとめたのに(←カタチから入るタイプ)

スマン、MチンとT。
美しい友情、胸を締め付けるような10代の想い出、
そんなものより何より

 


「小学生以下のワシの脳ミソ」
(車掌調べ)

 


これに一番泣けました。

たどり着いた東京の空は、ワシのこれからを暗示するかのように
どんよりと曇っていた。

                               つづく

 

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